Most Impressive Architecture 2009

Most Impressive Architecture 2009。昨年一年を振り返り『新建築』『新建築住宅特集』に掲載された作品および論文・記事の中から、特に印象深かったものを3点選ぶという企画に以下の文章を寄稿しました。

アンケート結果が新建築.netに掲載されています。是非ご覧ください。

作品

掲載誌:新建築10月号
作品名:NOWHERE BUT SAJIMA
コメント:プライバシーや法的な条件が潜在化された、ファサードが作る「作品」の層が誌面では前景化している。しかし、別会社であるNowhere Resortを通して不動産事業にコミットし、リゾートの意味を問い郊外をリノベートしようとする、作品に定着し切れない「活動」の層との総体にこの建築の面白さがある。吉村氏の幾つかの作品には、この2層化が見られる。建築作品を読むことに要求されるリテラシーの所在は、変わってしまったのではないだろうか?

掲載誌:新建築5月号
作品名:奥沢の家
コメント:「残すべきものが無い」と感じる程の中から「選択」したものと新しく「付加」したものに、対比や序列を見出すのでは無く、全てを共時的に捉え、1つの作品として見出すリテラシーが新しい。合理性に繋がらない「選択」が設計であることに気づかされた。リフォーム・リノベーションが、新築を超えた豊かな空間を獲得し得る可能性と、そのジャンル自体が新しい「素材」であることを、これ程まで示せた作品は無いのではないだろうか?

掲載誌:新建築9月号
作品名:永井画廊
コメント:ファサード改修に満たない、ガラス一枚の入れ替えという余りに汎用な問題が、ガラスの入れ替えだけでインテリア、若しくは街の設計が可能か?という難問に書き換えられている。西沢氏の作品には毎回驚かされるが、2009年で一番衝撃を受けた作品だった。狭小住宅より更に小さなインテリアやリフォームの設計でデビューする若い建築家が増える中、ここまで汎用且つ、小さな問題では無かったのではないだろうか?

論文

掲載誌: 住宅特集10月号
論文・記事:メールディスカッション さまざまな地域性に応える住宅とは
コメント:北海道から九州で活動する建築家達のディスカッションは、建築を通して日本を縦断する包括感があり、議論の内容にも興味を持った。これまで、気候・風土といった永続する地域性についての議論は多く蓄積されて来たが、変化し続ける今そこに住む人の現在が抜け落ちて来たのでは無いか?末廣氏の「さまざまなコンテクストを並列に考え・・合理的に解釈し直す」という立場は、地域性を現代性の中に位置づけるきっかけになると感じた。

掲載誌:新建築11月号
論文・記事:日土小学校の保存再生がくれた夢
コメント:10年掛かった保存再生の道程は、とても読み応えがあった。多くのリノベーションの作品が雑誌に登場して来たが、やや方法や要素の問題として形骸化してきた感があると感じている。この論文には、新しいリノベーションの方法と可能性が示されていた。「設計手法が開放的で論理的なものであれば、その上に新しいルールを重ねた設計というゲームを続けることが出来る」ということ、即ち設計を上書き、重層する設計方法の可能性である。

掲載誌:住宅特集9月号
論文・記事:環境対応の発想を、新しい住宅像の契機に
コメント:作品掲載誌にあっては目新しい、ハウスメーカーの物件が新鮮だった。記事の企画自体が問題提起的である。新築だけでなく、リノベーションや住宅街区に及ぶ環境技術への研究・実績にはとても興味を持った。社会との明確な接点であるこの分野は、業界全体でコミットするべき場であり、建築家とハウスメーカーの境界を無効化する議論が必要である。高口氏の、太陽光利用などが新しい景観を生む規制になり得る、という発言に共感した。